フリーランスにとって未払いは、死活問題。
未払いの回収に大切なのは、ひとつひとつの物事に落ち着いて対処すること。
トラブルの渦中では気持ちが落ち着かないかもしれませんが、いちど腰を落ち着けましょう。
問題を整理することで、解決の糸口が見えてくるはずです。
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この記事では、法人からの未払いを、弁護士をつけずに(厳密には、法テラスに相談しながら)回収した経験から得た学びをまとめたものと、ライティングの仕事をしているなかで出会ったトラブルを紹介しています。
もくじ
未払いを回収する主なプロセス
まずはざっくりと、未払い(原稿料)を回収したプロセスを紹介します。
ぼくが経験したプロセスは以下の通りです。
話し合いを求める
まずは相手方との話し合いを求めます。
いきなり「訴えてやる!」と感情的になるのは得策ではありません。
まずは心を落ち着けて、感情を抑え、深呼吸をし、紛争を解決するための話し合いを行います。
内容証明郵便を送付する
日本郵便が提供している内容証明というサービスを利用し、相手方に支払いの請求をします。
「内容証明郵便」は、日本郵便が、誰から誰に、いつ、どんな内容の郵便を送ったのかを「第三者として」証明してくれるものです。
いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって当社が証明する制度です。(内容証明—日本郵便より)
内容証明には「証拠になる」という効力があります。
何らかの紛争が当事者同士の話し合いで解決できなくなった場合、どちらの主張が妥当なのかを判断してもらうために、第三者にその内容や経緯を説明する必要があります。
それには証拠がとっても大切です。
内容証明郵便は、郵便局が、手紙が送付されたこと及びその内容を証明してくれるものですから「そんなもの知らない」と言えなくなるのです。
法的手続きをとる
裁判所へいき、訴訟の申請をします。
これは話し合いに応じてもらえず、内容証明郵便を送ったにも関わらず応じてもらえず(もしくは応じてもらえたが当事者間では解決に至らない)、といった場合にとる手段だと思っています。
ぼくの場合は訴訟ではなく「民事調停」という手続きをとりました。
詳し内容は体験談の部分に書いています。
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話し合いを求める・内容証明郵便を送付する・法的手続きをとるという3工程によって、未払いを回収することができました。
回収にかかった期間は1ヶ月ていどです。
未払いを回収するために相談できる公的機関
法律に関してはド素人なので、公的機関に相談をしました。
以下、実際に調べて利用した(または連絡をとった)機関です。
法テラス
法テラスはご存知の方が多いでしょうか。
法律まわりのトラブル相談所、という認識です。
「借金」「離婚」「相続」・・・さまざまな法的トラブルを抱えてしまったとき、「だれに相談すればいいの?」、「どんな解決方法があるの?」と、わからないことも多いはず。こうした問題解決への「道案内」をするのが私たち「法テラス」の役目です。
また、経済的に余裕のない方が法的トラブルにあったときに、無料法律相談や必要に応じて弁護士・司法書士費用などの立替えを行っています(民事法律扶助業務)。
(法テラスより)
フリーランスのように個人で活動していいて、弁護士にラクラク相談できるほど余裕のある方は少ないのではないでしょうか。そんな方たちの味方です。
ぼくの場合は、弁護士の方に無料相談(相談時間は1回30分)をさせていただきました。
ひまわりほっとダイヤル
中小企業向けの相談機関です。
個人でも相談を受け付けてくださいました。が、本当はよくなかったのかな…?
「ひまわりほっとダイヤル」は、日本弁護士連合会及び全国52の弁護士会が提供する、電話で弁護士との面談予約ができるサービスです。2010年4月1日から全国的に運用を開始しました。
「ひまわりほっとダイヤル」の全国共通電話番号「0570-001-240」に電話をすると、地域の弁護士会の専用窓口でお電話をお受けし、折り返しの電話で弁護士との面談予約ができます。
電話ではなく、申込フォームからオンライン上で申込みをすることもできます。
(ひまわりほっとダイヤルより)
下請け駆け込み寺
こちらも、中小企業向けの相談機関です。
全国48か所に設置された「下請かけこみ寺」では、中小企業の取引上の悩みの相談に企業間取引や下請代金法などに詳しい相談員や弁護士が無料で相談に応じています。
秘密は厳守します。
大きな悩みになる前にお近くの「下請かけこみ寺」にまずはご相談ください。(下請け駆け込み寺より)
未払い(原稿料)を回収した体験談
ここからは、未払い(原稿料)を回収するまでの体験談を綴っています。
支払いトラブルが発生と、原稿料を回収するまでの流れとをできるだけ具体的に書きました。
「ひとりでも回収できるんだ」と思ってもらえると嬉しいです。
支払いトラブルが発生するまで
※記事制作費用や執筆本数は実際の数字から変更しています。
支払いトラブルの内容概略
支払いトラブルに見舞われたのは、2017年(何月だったかは忘れました)。とある法人A(以下、A社)より記事制作の外部委託を記事単価3万円で受けたときのことでした。
なんと検収完了後に、記事単価を1万円に値下げさせてくれないかと言われたのです。しかも断ると「じゃあ受領しません!」との一点張り。困りました。
そこで話し合いをもちかけて、無視されて、内容証明郵便を送り、最終的には法的手続きをしてなんとか回収することができました。
支払い期日を一方的にズラそうとされる
A社より依頼された取材を実施し、記事を執筆、約1週間後に3本の記事を納品。
翌日、検収完了のメールをいただき、修正依頼はなくぼくの仕事は完了しました。
ところが、翌月末に問題発生。
契約書には翌月末に支払いとの記載がありましたが、銀行口座を確認すると支ありませんでした。
そこでA社に問い合わせると「記事の公開が次の月になったので、来月になります。また契約書に不備があったため再送します。」との返事が来ました。
納品後の手続きに関しては、ぼくは一切関与していないので、公開日を起点とされると支払いがずれ込みます。またこの点は、事前の通告もありませんでした。
原稿料の値下げ要求および「受領しません!」宣言
A社に報酬の支払いについて問い合わせた翌日、事件が起こります。
(プルルル…)←A社からの電話
ぼく「はい、エーサです」
A社「エーサさんですか、謝らなければいけないことがあって…」
ぼく「はい、なんでしょう」
A社「契約書の金額が間違っていて、1本あたり1万円にならないでしょうか?」
(一方的に支払日をずらそうとした上に今度は一体何を言っているんだ…?)
ぼく「いや、ちょっと厳しいですね」
A社「3本で3万円の発注のつもりだったんです。」
(契約書にはそんなこと書いてなかったぞ…?)
ぼく「いや、ちょっと厳しいですね…」
A社「じゃあ、原稿を受領しません!」
ぼく「は?いや、おっしゃる意味が…」
A社「今回の業務は記事の公開をもって完了とするものです。1本分は公開済みですので、1本分のみ支払います。他は公開しませんのでご安心ください。」
突然の「受領しません宣言(語気もかなり強め)」に呆気にとられ、
その場では何も考えられずにしぶしぶ了承し(本当はしていませんが)電話を終えました。
未払い(原稿料)を回収するまで
ここからは、A社から未払い(原稿料)を回収するまでの経緯を紹介します。
トラブルの渦中では気が気でない状態になると思いますが、いったん心を落ち着けて、以下のように段階を踏んで交渉を進めていくことが大切だと思います。
話し合いを求める
「受領しません!」という主張は納得いかなかったので、話し合いを求めるために後日にA社へ電話をしました。しかしつながらず留守番電話へ折り返しのお願いをいれましたが、それに対する返事ももらえませんでした。
法的手続きに進んだ際に「そんな電話は知らない」と言われても困るので、
話し合いを求めた証拠を残すために「内容証明郵便」を送ることにしました。
内容証明郵便を送付する
読み飛ばした方がいらっしゃるかもしれないので、日本郵便からの引用を再掲します。
いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって当社が証明する制度です。(内容証明—日本郵便より)
「内容証明郵便」は、日本郵便が、誰から誰に、いつ、どんな内容の郵便を送ったのかを「第三者として」証明してくれるものです。
法廷の場では、証拠としての効力を発揮します。
文面の作成は、A社との契約内容とぼくの請求内容を整理し、弁護士の方(法テラスを利用)に内容確認をお願いしました。
詳しくは『話し合いで解決できない問題は相手方に内容証明郵便を送ろう【原稿料編】』に書いています。
A社と事実確認を進める
内容証明郵便をA社に送付したところ、代表からすぐにメールで返信がきました。
「社員の言っていることとぼくの主張とにズレがあるために、事実確認を進めたい」といった内容が書かれていました(ちなみに「受領しません!」と電話で宣言したのは代表)。
仕事を受注した際のメール、納品時のメールと検収を完了した際のメールを集めて送付しました。また裁判所に提出することも想定して、すべてのメールをPDF化し保存しておきました。
裁判所(地方裁判所)は書類しか受け付けていないため、証拠として提出する情報はすべて印刷する必要があります。
A社のほうで納品日・検収日の確認が終わると、メールにて
「契約に則った対応をしてほしいということでお間違いないでしょうか?」
という質問をされました。
逆に、契約に則ってない対応ってなんだ。
何か裏がありそうだったので「内容証明郵便に書いた通りです」という風に返信をしておきました。
電話の話し合いを要求され、さらに謎の主張をされる
それまではメールでやりとりをしていたのにも関わらず、A社代表から電話が来ました。電話は証拠として残らないため、要件はメールで伺うと返したのですが、それは無視されて再びぼくの電話に着信がありました。
出ると、こんなことを言われました。
代表「契約書にある契約締結日を見ると、納品の後になっていますよね。契約締結前の業務は業務ではないので、契約に則った対応をするならばウチには支払う義務はありません。
でもそんなつもりもないので、当初の通り3万円で決着させませんか?」
契約の締結がが業務後になったのは、メールで発注を受けて仕事を進めていたためです。また契約書を交わさずに仕事をすることなんでザラにありましたから、それを逆手にとるなんて思いませんでした。
「契約に則った対応をしてほしいということでお間違いないでしょうか?」
というメールは、この主張をするための罠だったんですね。
でも発注もなしに勝手に仕事をするなんて、普通は考えられませんよねぇ。。。
法廷の場でもそんな言い分を押し通すつもりだったのでしょうか。
しかも「当初の通り、3万円で決着させませんか?」と、まるで譲歩しているかのような言い方をしています。1記事あたり3万円で3本納品したんですから、全然当初の通りではありません。
当然ぼくは納得できなかったので、こう返しました。
ぼく「納得いたしかねますので、法的手続きをとらせていただきます。」
代表「ええ、どうぞどうぞ、おまかせします。」
簡易裁判所へ民事調停の申し立てをする
「契約締結前の業務は業務ではない」という主張は受け入れられませんでしたので、いよいよ裁判所へいき相談をすることにしました。
当初は少額訴訟をする予定でしたが、弁護士の方ススメで「民事調停」という手続きに切り替えました。
民事調停というのは、訴訟ではなく「調停員」という第三者を交えて話し合いをするものです(詳しくは裁判所のホームページにある「民事調停をご存知ですか?」をどうぞ)。
▼ 5分程度で見られる動画もありました ▼
民事調停の手続きじたいはとっても簡単です。
「調停申立書(ちょうていもうしたてしょ)」という書類を書いて、お住いの地域の(あるいは契約書に記載の)の簡易裁判所に提出するだけです。
書類の書き方などは簡易裁判所の受付窓口へいくと教えていただけます。
証拠書類の準備(メールなど)が少し大変でしたが、民事調停の申し立て自体はとても簡単でした。
具体的な申し立て方法や実際にかかった費用は、下記の記事にまとめてあります。
和解(?)のメールが届く
調停申し立てが簡易裁判所に受理してもらえると、「調停期日呼出状」というものが送られてきます。

こんな感じです。
ここまで進んだところで、A社代表から下記のようなメールが届きました。
本件につきまして、調停となっておりますところ、弊社としましては、顧問弁護士と相談した結果、
貴殿がご主張されておられる金額をお支払いして、本件を解決させていただければと存じます。つきましては、お支払い金額とお振込口座について、改めてご教示ください。
電話では「ええ、どうぞどうぞ」なんて言っていたのに態度が変わりすぎですよね。
未払い(原稿料)が銀行口座に振り込まれる
ついに(!)に未払い原稿料を回収できました。
振り込まれたあとは、民事調停の取り下げをする必要があります。
しかし原稿料が振り込まれたのは、調停期日の前日。
余裕をもって振り込まれれば予定を調整できますが、前日に振り込まれたので急遽予定を切り替えて裁判所へいくことになりました。
取り下げをせずに裁判所に向かい、調停員の方に「昨日に振り込まれました、だから和解済みということで相手方は来ないと思います」などと説明するのは大変に面倒ですし、なにより準備など手間暇をかけさせることが申し訳ありません。
だから慌てて裁判所にいって、取り下げ手続きを済ませました。
手続きは「取り下げをお願いします」と伝えるだけでした。
回収できたのはよかったですが、なんとも後味の悪い終わり方でした。
最後のさいごまで、嫌がらせです。
まとめ
フリーランスは売上の回収に自分で責任を持たなければいけない。
これをほんっとーに強く、つよく実感しました。
また法人対個人という関係上、立場が弱く支払いトラブルに見舞われるケースも少なくないこともインターネット検索をしていてよくわかりました。
おそらく法人対個人で数万〜数十万円を踏み倒されるケースは、訴える側が最も苦労するような対応をするのが常套手段になっているのだと思います。
ですから問題が発生した時点で、ある程度の手続きは決まっていることが推測できます(話し合いを求める→内容証明郵便を送付する→法的手続きに進む)。
いざというときに戦う方法として、覚えておいても損はないでしょう。